大野明子先生講演会「いのちを産む」講演録(1/3)

2007年10月21日に行われた、『映画「地球交響曲第五番」上映会と大野明子先生(明日香医院)講演会の講演録を掲載します。』(長文のため三分割しています)

 「ガイアシンフォニー五番」を見ていただいて、「五番」でお産の場面がありましたが、あれは私どものところで撮影したものです。今日はそういうご縁でこちらにお招きいただきまして、大変ありがとうございます。
 お手元に私たちの本当に小さな小さな診療所ですけれども、リーフレット3つ折のもの、届いておりますでしょうか。岐阜ですと、多分個人開業医さんもたいへん大規模にやっておられて、土地も広くて、車も何台も停まっていることだと思いますが、うちはそんなこと全然なくて、100坪ちょっとの土地に、小さな2階建ての木造の家が建っておりまして、映画に映ってるとおりですけれど、お産の部屋がひとつと入院していただく部屋が2つ、外来診察室がひとつあります。スタッフは私と常勤助産師が5名おりまして、月、15件、年間150件くらいのお産のお世話をしています。
 今日、前田先生がいくつか資料をご用意してくださっているようで、お手元に別刷りのコピーですが、「命を奏でる映画『地球交響曲第五番』――明日香医院でのお産の場面を語る――」というテーマで、医学書院から出ております、助産雑誌に載せた記事です。「ガイアシンフォニー五番」封切が平成16年の夏でした。その後、私たちの診療所でも上映をさせていただいたんですが、龍村さんと宮崎雅子さんというカメラマンと私の3人で対談した記事です。
 これからカメラマンの宮崎雅子さんが撮ってくださった明日香医院での写真をお目にかけますが、宮崎さんとどういうかかわりだったかをお話しますと、「ガイアシンフォニー五番」の画像はきれいな画像なんですけれども、ガイアばかり撮っていらっしゃる赤平さんというカメラマンがいらっしゃって、すごーい厳つい男の人で、元暴走族かなんかで、すごく面白い服を着ていて、お父さんが洋服屋さんだったそうで、派手なチェックのスーツとかそういうのを着ているすごい厳ついおじさんなんですが、ガイアは、そのおじさんがきわめて繊細に撮影しておられる映像がほとんどなんです。その赤平さんがお産の場面を撮るといったときに、うちは狭くて、分娩室も狭いので、赤平さんの体が入るかって問題もありますけれども、そもそも赤平さんの雰囲気で分娩室で撮るとお産はどうなっちゃうかわからないってこともありました。
 最初にこの別刷りを読んでいただくと書いてあるんですが、実はお産をしてらっしゃる方は、龍村監督の奥さんのゆかりさんなんですね。ゆかりさんの第二子のお産なんですけれども、龍村監督は「五番」の撮影が始まって、ラズローさんをイタリアに撮りに行ってるときに、ゆかりさんの妊娠がわかって、ゆかりさんは私たち明日香医院の妊婦さんとして、通院してくださっていたんですね。で、そういう中で、「五番」の中にお産の場面を入れたいなあと監督がお思いになったようで、ゆかりさんが妊婦として通院していらっしゃったので、撮れませんか?という話になりました。
 私たちのところでは、宮崎雅子さんはフリーのカメラマンなんですが、子どもの写真とかお産の場面を撮ることをライフワークにしてらっしゃる女性のカメラマンで、もう10年以上ずっとお付き合いがありまして、産婦さんが自分のお産を撮ってほしいと希望されると、宮崎さんがお産の日に来てくれて、写真を撮って、一冊のアルバムにして、作品に仕上げてくれる、と。そういうようなことで仕事をしていらっしゃいまして、私たちのところでも100例ぐらい撮っておられるんじゃないかと思います。そういう何年にもわたる宮崎さんとのお付き合いがありまして、宮崎さんに撮っていただけますか?という話が監督のほうからありました。
 ですので宮崎さんは、スチールの普通のカメラマンなので、いつもはスチールで撮っていますが、このときだけはポータブル映画用カメラを持って、分娩室に入る。私たちにとっては、それだけのことだったんです。そういうことでお断りする理由もなにもないのでお引き受けしたんです。なので、実際の「五番」の映像で、気がつかれなかった方もいらっしゃるかもしれませんけど、お産の場面だけちょっと暗くて、短い画面になっています。ほかの場面は横長のワイドだったと思いますが。それは、一応映画用なんですが、ホームビデオよりは大きいけれど、ふつうの映画用のカメラに比べると大分小さいデジタル用のハンディーカメラで撮っているからなんです。そんなふうに、宮崎さんも無事間に合って、お産の場面が撮れたので、そんなことをこの別刷りの中で話しています。読んでいただけたら、大変幸いです。
 それから、「五番」の映画のパンフレットの中には、龍村さんとの映画のパンフレット用にお話した対談もありまして、今日パンフレットも売ってられるということですけれども、明日香医院のホームページでも載せてあります。
 
 私たちのところは、本当に分娩台も手術室もない小さな産科診療所です。そこで、どんなことをやりたいかというと、自然なお産と母乳育児をやりたいと思っています。それは、実は当たり前のなのですが、今、日本ではそういう当たり前のことが難しくなっています。私たちのところの1550例の中では帝王切開率は2パーセントぐらいですが、世の中を見回すと、全国平均で20パーセント位、東京都にかぎると30パーセント位になるようです。
 それから、おっぱいということに関しても、人間の子には人間のおっぱいというのは本当に当たり前だと思い、助産師が一生懸命にやってくれて、おかげさまで一ヶ月健診の母乳率98パーセントぐらいでやれています。しかし、日本中を見渡すと、厚生労働省が10年に一回3000人ぐらいの母子を対象に調査をやっているのですが、2005年の調査の発表されたものでは1ヶ月健診の母乳率はなんと、42パーセントしかいません。それが3ヶ月健診となると30パーセント代になります。年々下がっていて、その前は1995年、その前は1985年の調査で、大体の数字で言うと1985年は48パーセントぐらい、1995年には45パーセントぐらいになり、2005年には42パーセントになってしまった。1ヶ月検診時点で半分の赤ちゃんもおっぱいを飲んでいない。その厚生労働省の調査を見ると、ミルク育児のお母さんは離乳食にベビーフードを使っている人が多いこともわかります。
 おっぱいで育てるということは、その子の将来の食生活にとても大事だと思うのですが、半分以下ということで、非常に嘆かわしい状況です。ただ実際に第一子をおっぱいケアに熱心でない施設で出産し、第2子でこちらにこられた方の話を聞くと、赤ちゃんを産んですぐに新生児室に引き離されて、新生児室においとかれて、会陰切開の後がすごく痛くて歩けなくて、それで授乳室に昼間だけ通ってて、夜は寝てたらそりゃあ母乳育児は無理だよね。ってことはもちろんあるわけです。やはり98パーセントになるためには、それなりにお産をして、産後それなりにお世話しなきゃいけないわけです。
 そんなふうにやっているんですけれど、ちょうど明日香医院も開院して10年になりまして、しみじみ思うことは、今日私はここにいらっしゃった方にお伝えしたいことは、皆さんご存知かもしれないんですけど、子どもを可愛がる力の源は、お産にあると思っています。妊娠中に、赤ちゃんが生まれて可愛いと思えるかどうかわからないとおっしゃる方は時々あるんですけど、やはりそういう思えるのはきっと当たり前で、母性というのは女の人には誰にも生まれつき備わっているというものではなくて、本当に育つもので、赤ちゃんがおなかにやってきて、おなかの中で少しずつ育って、おなかも大きくなるし、赤ちゃんも蹴ったりする。そういうふうに月が満ちて、陣痛が始まって赤ちゃんが自分で生まれてきて、それで、おっぱいというのはお母さんの血液から作ってますから、そういう血液から作ったおっぱいで赤ちゃんを育てる。で、赤ちゃんはちゃんと自力でおっぱいを飲む。そういうふうに、自分のいのちが新しいいのちを育てるということ通じて、母性は育つし、子どもを可愛いと思えるんだろうと私は思っています。「自分で産んだ」という自己肯定感、自分のからだへの肯定感と言うのは、女の人にとって、とても財産になると思います。そういうことを思ってやってきた、というよりはむしろ、1500以上のお産をお世話させていただいて、産む人たち、赤ちゃんたちから、教えられたと実感しています。
 映画の中で、「愛された子どもは人を愛する能力が育つ」と言っているところを、ちょうど龍村さんがピックアップして強調していますが、本当にこれも常々思うところです。愛されている赤ちゃんというのは、可愛いんですよね。それは、愛されてるオーラが、赤ちゃんから照りかえるように可愛い。それは、子どもを見ていて、本当に思うことなんです。そういうふうに子どもを、無条件に可愛いと思えるから、子どもを受け容れられて、子どもも育つんだろうなあと思っています。
 先ほど、「五番」で映像を見ていただいたわけですが、これから宮崎雅子さんが私たちのところで撮った写真、動画でなくて静止画、スチールですが、これをお見せしようと思います。私は、フォトストーリーと名付けていますが、今日は、宮崎さんの写真を90枚くらい持ってきました。曲に乗せて流します。この曲はアメリカ、アイダホ州にお住まいのケリー・ヨストさんというピアニストで、「ガイアシンフォニー五番」では、前半でバッハのプレリュード、最後にパッフェルベルのカノンが入っています。
 ヨストさんはコンサートを一切しなくて、パートナーであるご主人と一緒にCDを自主制作され、そのCDを売ってるという、コンサートをしないタイプのピアニストなんですが、この「ガイア五番」の後の「六番」にヨストさんが出演しておられます。「六番」は音がテーマですが、とても良くて、いろんな曲が紹介されています。今日はヨストさんのアルバムから、バッハのプレリュードから始めて、パッフェルベルのカノンまで4曲もってきました。このお産の写真をいろんな音楽にのせて、どんなにしたら一番いいかなあなんて、合わせてみるんですけれど、なかなか合う曲がなくて、エンヤがいいかなあと思うと案外そうでもなくて、今までは鈴木重子さんていうボーカリストのアルバムにのせていたのですが、今回ヨストさんのピアノに乗せてみた新作です。さっきの映画の音楽とちょっとダブりますけれども、ヨストさんの曲もいろいろあって、いろんなのに合わせてみて、どうもいちばんしっくりくる組み合わせが、結局「五番」の中で、龍村監督が使っておられたもので、ああ監督はすごいなあと思いました。ではやってみます。ご覧ください。うまくいきますように。

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