大野明子先生の講演を聞いて
大野明子先生の講演を聴いて市原さんが感想を書いて下さいましたので紹介します。
市原美幸
ガイアシンフォニー第5番、素敵な音楽にのせてのスライド写真、そして大野先生のお話を聞き、自分が出産した時のことを思い出しました。“生まれたばかり子は仏様のような顔をしている”とおっしゃっていましたが、娘の誕生の際、主人の第一声も“お地蔵さんが出てきたのかと思った”でした。講演後、娘に会った瞬間、思わず抱きしめてしまいました。
帝王切開についてお話を聞き、私が思っていた以上にリスクが高いということを知りました。私の周りにも帝王切開をした人が何人かいます。しかも、一人目で緊急帝王切開になった人がほとんどです。どれほど不安で辛かったことかと思います。帝王切開でなくとも、出産について聞くと、とにかく痛かった、出産後も会陰切開のあとが痛くて歩けない、第2子は考えられないなどというマイナスな話ばかりでした。
私自身の出産を振り返ってみると、始めは近所の産婦人科に通っていました。妊娠中、ぎっくり腰になり腰痛に悩まされ、産婦人科の先生に言ったところ、出されたのがその場しのぎの湿布薬。この腰痛を持ったままで果たして出産に耐えられるのであろうか…と疑問を持ち、いろいろ調べ始めました。骨盤ケアをしてもらえる助産院の存在を知り、助産師さんから手当てしていただきました。さらに教えていただいた足湯法で腰痛はなくなりました。この時、医療との違いを実感しました。それからというものお産とはなんだろう…と考え始め、本を読みあさる日々。「分娩台よ、さようなら」の本も手に取りました。妊娠は病気じゃない、親からもらった健康な体、それなら医療行為は必要ない。助産師さんからいろいろな話を聞き、“健診5分、質問しても教科書どおりの答えしか返ってこない産婦人科”では教えてもらえないことをたくさん教えていただきました。そして、助産院でのお産を決めました。初産で何かあったらどうするの?自然裂傷したらあとが大変だから切ったほうがいいんだよ、等の母世代からの声。しかし、私の中では、いつの日からか会陰切開、分娩台、出産当日の担当医・助産師が誰になるかわからないということの不安のほうが強くなっていました。
貧血があり、約1カ月も早い出産になったにも関わらず、無事助産院で、元気な赤ちゃんを産むことができました。陣痛・出産時の痛みはよく覚えていないけれど、映画の中でもでてきたように、主人や義母にうちわであおいでもらったこと、助産師さんの手のぬくもりは今でも鮮明に覚えています。
今の時代いろんな情報で溢れていますが、良い面ばかりがクローズアップされ、リスクなどの悪い面は隠されている。悪い面に関してはそこに疑問を持ち、自分で調べて初めてわかるということがほとんどであるような気がします。私も腰痛がなければ、何の疑問を持つことなく、自分の体と向き合うことなく、あたりまえのように産婦人科での出産をしていたことでしょう。
出生前診断についてはよく知らなかったのですが、絶対にしたくないと思いました。出生前診断をすることによって障害が見つかりショックを受ける。そして、産むか産まないかで悩む。そこで中絶を選んでも心身の傷は大きいし、産む決断をしたとしても不安な妊娠生活を送り出産を迎えることになる。そういうことを考えると、出生前診断をするということは、どの部分をとっても自分を苦しめることにしかならないという風にしか思えません。ではなぜ、出生前診断というのがあるのでしょうか。社会において障害者は“特別”で、障害=大変というイメージが強いからではないかと思います。
私は以前に1年ほど障害児の通園施設で働いていました。私自身、それまでの生活の中で、障害のある人との関わりは全くなかったので、やはり障害者は特別なんだと思っていました。でも実際にダウン症や自閉症などの障害のある子どもたちと接してみて、発達に遅れがあったとしてもゆっくり成長していて、子どもにはなんら変わりないし、何よりかわいいと感じました。こんなことを言うと、一時の関わりだからそう思えるんだ、実際どれだけ大変かわかってない、と障害のある子を持つ親さん達から思われるかもしれません。でもそのとおりだと思います。どんなことに関しても、自分が当事者になったとき、経験したときに初めて真実がわかるのだと思います。もし、今の社会の中心に障害を持つ人がいて、身近にそういった人たちとの関わりがあり、障害を持つ子との暮らしというのがイメージできれば、たとえ障害のある子が生まれてきたとしても受け入れることができ、不安も軽減されるのではないでしょうか。医療の発達だけでなく、その後のサポートが重要なのではないでしょうか。
今切実に思うことは、この映画やお産についての講演が教育現場で性(生)教育として全体で取り上げられること。大野先生の講演はお産を通して障害についても考えさせられたし、お産は様々な社会問題と密接に関係していると感じました。いじめ、少年犯罪、誰かが誰かを殺したというニュースが絶えない今日、お産について親と子、先生が一緒になって考え、語られることによって何かが変わるのではないでしょうか。現在第2子妊娠中。この時期にこのような素晴らしい映画を観ることができたこと、そして大野先生にお会いできたことに心より感謝します。次はどんなお産になるのだろう…今から楽しみで仕方ありません。本当にありがとうございました。
ご案内: 「2008年、7月か8月に大野明子先生をお招きしての学習会を計画しています。」