2007年度「卒園のしおり」から(1)

【倖平の卒園にあたって】 土田 学

 生後三ヶ月で重度のアトピーと診断された倖平は、顔や膝裏だけでなく、頭皮もジュクジュクで髪の毛は抜け落ち、掻き毟っては出血してガーゼで包まないと抱っこも碌にできないような状態でした。ステロイド治療のリバウンドに疑問を感じた私たちは、休みの度に遠方の名医と言われる医者や漢方治療を尋ねて回り、アレルギーの検査では、ありとあらゆる食物が陽性と出て、家族は粗食に切り替え、無農薬などの食事を扱っている保育園を探していました。十ヶ月でくさぶえ保育園に来て「あなたたちはこの子のアトピーしか見ていない。痩せ細ってしまって発達も遅れている。」と前田さんに言われたことは、確かにその通りで衝撃的でした。アトピーを治せればそれでいいというような浅はかな考えがあったからだと思います。この頃の倖平は這い這いもできず、発達に必要な栄養は全く足りていませんでした。そして、これもこの頃は衝撃的でしたが、園ではオムツを常にはずしてもらい、思いっきり股関節を使えるようにして、裸足で土山の斜面や、前田さんの勧めで当時住んでい
たアパートの4階の階段も毎日自力で昇り降りする経験が得られました。ロールマットやリズムの成果もあって、全身の筋の発達はみるみるうちに逞しくなり、長男純平の二才の頃のポチャッとした体系と比べると、まるで比較にならないくらいでした。純平は「三つ子の魂百まで」「二才まではヒトから人間への最も大切な土台を作るとき」をくさぶえで経験できず、三才までテレビ、おもちゃ漬けにしていたため、倖平の成長ぶりを見ては、以前の育て方が本当に悔やまれてなりませんでした。倖平の成長ぶりは順調で、アトピーも完治し、全く問題ないように思え、年長になった日の姿を楽しみにていました。

 ところが、今から思うと倖平の三才の頃に「反抗期でてこずったなぁ」といった記憶がほとんどありません。この時期は純平の年長や小学校入学という方ばかりに目が向いてしまっており、そして倖平が四才になってからは三男の響平が生まれ、やはりそちらに掛りきりになりがちだったことなどから、真ん中の倖平はかなり辛い思いをしていたことと思います。描く絵を見てもいつも順調だと思っていた倖平でしたが、問題はだんだんと浮き彫りになってきました。年中始めの一ヶ月は登園拒否、そして年長になってからは、すっかり治まっていたはずの喘息発作が再燃し、三度の入退院を繰り返すなど、精神的にも体力的にも随分と遅れをとってしまいました。年長のお泊りは「いや」、何を頼んでも「いや、いや」がしばらく続きました。それから、今年に入って精神的な原因で起こる喘息の小発作は、華世のひと言をきっかけにして克服し、やっと年長らしさが出てきました。

 今年の年長は本当に色々な所へ行って、色々な経験をさせてもらいました。特に最後の一ヶ月は、お泊まりが何度もできたことを自信にして、また一回り大きくなったように感じます。気がつくと響平の面倒を見ていたり、ハムスターの世話やかごの掃除を自分からするようになって、体も思うようによく動くのをとても楽しんでいるようにみられてきました。この先、もう少し生意気でお調子者の腕白小僧が続くような気がしますが、少々遠回りした分、小学校へ行ってからも本当に遊びきるまで、勉強などは強いらないようにしていくつもりです。二才までの人間としての土台がしっかりと築かされていることを信じて・・・。

 倖平の姿を通して改めて感じたことは、本当に周りの環境(兄弟関係も含めて)や親の係わり方ひとつで、よくも悪くも子どもは変わるということでした。そういう意味では男の子三人、これから父親の姿を見たときに、今のままではいけない、こんな背中は見せられないと思い知らされ、自分も色んなことから逃げてばかりいないで、ぬるま湯にばかり浸かっていないで、これから先、自分や周りの色んな人としっかりと向き合っていかなければいけないと思いました。

根っこ

何もない場所だけれど 大切なものがある
あの頃のままの土のぬくもりや 緑の風が吹く
小さな歩幅だけど 確かに歩んできた
ひとつひとつまた乗り越えて 笑えた喜びがある
それは生きる力になり 道は続いてゆく
枝を折られても 葉っぱを飛ばされても 幹を倒されても
ここで育った 深く深くはった根っこが
あなたを支えている ずっと

移りゆく時の中で 変わらないものがある
形ではなくそこには本当の 飾らないものがある
小さな母趾だけど 大地を蹴ってきた
できなかったことができるようになった その時の自信がある
それは生きる力になり 道を照らしてゆく
枝を折られても 葉っぱを飛ばされても 幹を倒されても
ここで育った 深く深くはった根っこが
あなたを支えている ずっと

何もない場所だけれど 大切なものがある
厳しさの中にある本当の 優しさがここにある きっと

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