2007年度「卒園のしおり」から(13)

【0歳からの保育】  前田 綾子

 くさぶえ保育園の歴史の中で0・1歳児から子ども達が何人か揃っている年というのはそんなに多くない。5年保育、6年保育の子ども達で一番古いのは、まこちゃんとるりこ(今、高校生)その後は里実ちゃん達(中学生)そして憲進・ともか達(小学生)そのあと義くんひろ君、孝くんたちが今度、小学4年生になる。そしてそれに続くのが今年の年長児達になる。6歳で5年、6年保育というと、お母さんから産まれてきて、目覚めている時間の3分の2以上を保育園で過ごす、ということになる。
 3年保育の子ども達は、「三つ子の魂、百まで」という怖ろしく親にプレッシャーを与えるこの諺の3歳を過ぎてから入園している。ところが0歳から入園してきた子ども達には保育者の責任は重大、0歳から入っているのに竹のぼりができないとか、○○ができない。なんていうと、一体どういう保育をしてきたの?と問われてしまう。
 斎藤公子先生に尋ねたことがある。映画「さくらんぼ坊や」にでてくるアリサちゃんと同級生で3歳児から入園したマコト君のことを。斎藤先生は「普通」と答えられた。「普通」とは普通の人になっている、ということだ。じゃあ、アリサやアツコやこずえ達0歳から入園していた子達は「普通」ではない。「普通」以上ということになる。
 しなやかな身体・しなやかな心とか、全面発達とか、巧緻運動の制御など、「三つ子の魂、百まで」と同レベル(?)くらいのこの怖ろしい言葉は0歳からの保育を受けた子ども達は身につけて当然。と言われてしまう。この「普通以上」の中身(しなやかな身体・しなやかな心、全面発達、巧緻運動の制御)を幸運にも身につけることができた子ども達はどんなふうに成長していくか、とても興味深い。映画「アリサ」の山崎定人監督もまた然りである。くさぶえの保護者も同様に、小学校に行ってからのことを心配している。
 そして当の本人達はというと、きわめてマイペース、最初から最後までマイペース。このマイペースという意味もまた怖ろしい。「自分で決める。人の指図は受けない。他人に左右されない。」自分のペースを知っている、ということだ。
 今回沖縄での斎藤公子先生の公開保育の最終日、年長児の絵を並べて見たときの話。子どもの絵を見ただけでおねしょがあると斎藤先生にはわかるらしい、、、。
 斎藤:子どもがおねしょをした時、叱ってないだろうね。
 母:はい。叱っていません。
 斎藤:本当?なんて言ってるの?
 母:今度はトイレでしょうね。って言ってます。
斎藤:それがいけない!「おねしょは20歳までしていいよ」それくらいの気持ちでいなきゃ。

斎藤:ここにいるお母さんの中で自分の子どもが宿題忘れて学校で立たされた時、なんて言います?「宿題なんかやらなくてもいいよ。」って言えるお母さん、手を挙げてごらんなさい。宿題なんかやらなくても後半くらいからぐっと伸びるから、大丈夫。
 事実、他の保育園の子でも、くさぶえでも、早くから塾に入れた子たちは伸び悩み、中学3年生までは部活三昧でも、いざ目標を決めた時点から猛烈に勉強し、驚くようなところへ進学している。そういう子を私は何人も知っているし、親が焦って早くから塾通いをさせた子は力尽きて、実力以下のところへ進学したりしている子も何人も知っている。そのことをどうこうは思わないけれど、本人が本当に自分でやりたいことをやってきたかどうか、である。
 「親が変わらなければ子どもは変わらないよ。」と常々言っている。でも親を変えるには子どもを変えることがセオリーである。子どもを変えると親がそれに気付き、親自身が変わろうとしてくれる。

 昨夜この5人の子ども達の入園当初からの絵を見た。乳児期に本当にたいへんだったことがよくわかる。生まれ持った弱さに加えて、アレルギー体質、除去食のよる栄養障害やからだのゆがみや硬さをもった3人と、後から入園してきた2人の発達の遅れやアンバランスさ。
 でも年長児になってからのこの5人は本当によく働き、よく遊び、よく歌い、よく描き、よくお泊まりをした。そして泊まる度に何かが起きた。突然のキャンセルや体調悪化も含めて。
 最後の最後まで粘り強く、そして集中力をみせてくれた子ども達。
 楽しかったね。
 ありがとう。前田もうれしいよ。

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